2009年11月05日
「缶コーヒーなんて、飲まないよ」
前に、糖尿病でみていた患者さんを紹介します。
その病院に赴任したのは、前任の先生の入れ替わりで、いわゆる「医局人事」というやつでした。
大学の医局が、主な病院の勤務医の配置を制御していたのです。不透明な部分もあるとして、問題とされましたが、医師側からみて利点もありました。たとえば、へき地の病院や都会の激務の病院、あるいは、症例数が非常に多い病院や、比較的時間に余裕があり大学に近くて医学研究のために大学に通うことが可能な病院、など、それぞれの病院の特性に応じて、医師が配置されていることが多かったと思います。ずっと、へき地の病院に赴任したまま、などということがないように、医師が循環するようになっていました。
患者さん側からみれば、数年すると主治医が変わるなど、あまり、メリットはなかったかもしれませんが、でも、そこに、その病院に、医師がいつも派遣されている、ということは、地域社会にとっても、メリットはあったと思います。今、各地の市民病院が医師不足に悩んでいますが、全国の街に市立の病院がたくさんできて、維持されていたのは、実は、大学の医局との関係があったと思っています。今、医師不足になって、そのことが明らかになっただけかなと。
また、病院側も実はメリットがあり、定期的に医師が入れ替わって派遣されてくるということで、医師を探す手間がなく、また、たとえば、少し問題がある医師が派遣されても、医局にかけあうことで早めに交代となったり、あるいは、数年すれば交代するから、と、がまんすることもできました。少し問題のある医師であっても、医師がいないよりはよい、と思います。その問題の内容にもよりますが。
この仕組みが問題となったのは、その医師派遣にからんで、あるいは、医師の増員を図りたい病院側からの不透明なお金の流れがあったのではないか、ということかもしれません。勤務医たちが集まっては、「今度、あの病院の医師が増員になったが、実はな、」といううわさ話のたぐい、多かった。
閑話休題。
その患者さんは、50歳代のおじさんで、糖尿病ということでしたが、実は、前医がてこずっていました。タバコもやめられなかったり、お薬もきちんと服薬できなかったりで、血糖のコントロール不良ということもありますが、毎回の診察前に採血をして、血糖値やHbA1cの結果がでるのを待ってもらっているとき、「診察はまだか」という問いかけを、大きな声で、看護師さんが前を通るたびにしているような、あるいは、「この病院は、いつも待たせるよな」と、隣の患者さんに無理矢理話しかけて同意を求めるような、その方が待合室にいるだけで、本人も含めて、みんなの血圧が心配になるような、そんな患者さんでした。
でも、こういう患者さんほど、予約通りには外来に来れなかったり、何度も病院に来るのはできないとのことで、前日に採血しておく、などの工夫もしずらいことが多いように思います。
単に、気忙しい性格なのかもしれないです。性格タイプと疾病との関係を感じさせる方でもあります。
外来の担当医交代の挨拶をして、診察を始めました。
「お仕事は、何をなさっておられますか?」
運転手とのことでした。診察室では、病気に関することだけを効率よくすませて、という医師もいるのですが、私は、いろいろ、お話をするのが好きなので、交代して最初の診察なので、いろいろ、聞いておきたいのですが、待合室にたくさんの患者さんが待っておられますし、隣で看護師さんが、「早く!」という空気も醸し出しています。
これから、長い付き合いですから、1回で全てを聞き出す必要はないかもしれませんが、早速、質問をしてみました。
「では、缶コーヒーなども運転しながら飲みますか?」
糖尿病の方の食生活は把握しておきたいので。すると、患者さんは、手首の金のブレスレットを触りながら、
「いやあ、先生、わしは、缶コーヒーなんて飲まないよ」
そうか、やっぱり、病気のこともあるから、糖分の摂取にも気をつけておられるのかな。コーヒーは飲まないのか。
「コーヒーは嫌いなのですか?」関係ない質問にも思えますが、患者さんは私の緩んだ表情をみながら、続けました。
「わしは、コーヒーが好きでね。いつも、家で淹れたコーヒーをポットに入れて持ってて、それを飲むんだよ。」
へえ。どんなコーヒーが好きなのかな。「自分でコーヒーを淹れるのですか?」
「おお、キリマンジャロが好きだ。豆からちゃんと挽いてね。それで、砂糖を入れて、ポットに入れておくと、夕方まで温かい。」
ええ?砂糖を入れる? ちょっと待った!
「砂糖を入れたコーヒーを飲むのですか?」
「そうだよ。缶コーヒーの味は好きではないからね。キリマンジャロを豆から挽いたのはうまい。」
いやいや、糖尿病の管理をしている担当医としては、コーヒーの味についてよりも、砂糖が入っているというところが気になるのだけれど。そうやって本格的に淹れたコーヒーは美味しいでしょうけれども。
その病院に赴任したのは、前任の先生の入れ替わりで、いわゆる「医局人事」というやつでした。
大学の医局が、主な病院の勤務医の配置を制御していたのです。不透明な部分もあるとして、問題とされましたが、医師側からみて利点もありました。たとえば、へき地の病院や都会の激務の病院、あるいは、症例数が非常に多い病院や、比較的時間に余裕があり大学に近くて医学研究のために大学に通うことが可能な病院、など、それぞれの病院の特性に応じて、医師が配置されていることが多かったと思います。ずっと、へき地の病院に赴任したまま、などということがないように、医師が循環するようになっていました。
患者さん側からみれば、数年すると主治医が変わるなど、あまり、メリットはなかったかもしれませんが、でも、そこに、その病院に、医師がいつも派遣されている、ということは、地域社会にとっても、メリットはあったと思います。今、各地の市民病院が医師不足に悩んでいますが、全国の街に市立の病院がたくさんできて、維持されていたのは、実は、大学の医局との関係があったと思っています。今、医師不足になって、そのことが明らかになっただけかなと。
また、病院側も実はメリットがあり、定期的に医師が入れ替わって派遣されてくるということで、医師を探す手間がなく、また、たとえば、少し問題がある医師が派遣されても、医局にかけあうことで早めに交代となったり、あるいは、数年すれば交代するから、と、がまんすることもできました。少し問題のある医師であっても、医師がいないよりはよい、と思います。その問題の内容にもよりますが。
この仕組みが問題となったのは、その医師派遣にからんで、あるいは、医師の増員を図りたい病院側からの不透明なお金の流れがあったのではないか、ということかもしれません。勤務医たちが集まっては、「今度、あの病院の医師が増員になったが、実はな、」といううわさ話のたぐい、多かった。
閑話休題。
その患者さんは、50歳代のおじさんで、糖尿病ということでしたが、実は、前医がてこずっていました。タバコもやめられなかったり、お薬もきちんと服薬できなかったりで、血糖のコントロール不良ということもありますが、毎回の診察前に採血をして、血糖値やHbA1cの結果がでるのを待ってもらっているとき、「診察はまだか」という問いかけを、大きな声で、看護師さんが前を通るたびにしているような、あるいは、「この病院は、いつも待たせるよな」と、隣の患者さんに無理矢理話しかけて同意を求めるような、その方が待合室にいるだけで、本人も含めて、みんなの血圧が心配になるような、そんな患者さんでした。
でも、こういう患者さんほど、予約通りには外来に来れなかったり、何度も病院に来るのはできないとのことで、前日に採血しておく、などの工夫もしずらいことが多いように思います。
単に、気忙しい性格なのかもしれないです。性格タイプと疾病との関係を感じさせる方でもあります。
外来の担当医交代の挨拶をして、診察を始めました。
「お仕事は、何をなさっておられますか?」
運転手とのことでした。診察室では、病気に関することだけを効率よくすませて、という医師もいるのですが、私は、いろいろ、お話をするのが好きなので、交代して最初の診察なので、いろいろ、聞いておきたいのですが、待合室にたくさんの患者さんが待っておられますし、隣で看護師さんが、「早く!」という空気も醸し出しています。
これから、長い付き合いですから、1回で全てを聞き出す必要はないかもしれませんが、早速、質問をしてみました。
「では、缶コーヒーなども運転しながら飲みますか?」
糖尿病の方の食生活は把握しておきたいので。すると、患者さんは、手首の金のブレスレットを触りながら、
「いやあ、先生、わしは、缶コーヒーなんて飲まないよ」
そうか、やっぱり、病気のこともあるから、糖分の摂取にも気をつけておられるのかな。コーヒーは飲まないのか。
「コーヒーは嫌いなのですか?」関係ない質問にも思えますが、患者さんは私の緩んだ表情をみながら、続けました。
「わしは、コーヒーが好きでね。いつも、家で淹れたコーヒーをポットに入れて持ってて、それを飲むんだよ。」
へえ。どんなコーヒーが好きなのかな。「自分でコーヒーを淹れるのですか?」
「おお、キリマンジャロが好きだ。豆からちゃんと挽いてね。それで、砂糖を入れて、ポットに入れておくと、夕方まで温かい。」
ええ?砂糖を入れる? ちょっと待った!
「砂糖を入れたコーヒーを飲むのですか?」
「そうだよ。缶コーヒーの味は好きではないからね。キリマンジャロを豆から挽いたのはうまい。」
いやいや、糖尿病の管理をしている担当医としては、コーヒーの味についてよりも、砂糖が入っているというところが気になるのだけれど。そうやって本格的に淹れたコーヒーは美味しいでしょうけれども。

