2009年07月29日

骨髄穿刺は腸骨で

内科医が取得すべき臨床手技もいろいろあります。もともと血液内科に入局しましたので、骨髄の内容を採取する骨髄穿刺は得意とする検査です。血液の病気を診断するためには、特に血液細胞の病気の場合は、結局、造血(幹細胞の細胞分裂)が行われている骨髄の様子を確認することが必須になるからです。白血病は当然ですが、貧血の病気であっても、あるいは、血小板減少性紫斑病であっても。それらを鑑別すべき、膠原病や自己免疫疾患、悪性腫瘍、そして、感染症の患者さんの場合でも。

なぜ、内科を選んだのか、内科医になったのか、という質問はよく受けます。
「血を見るのが苦手なので」と、笑いながら答えることにしています。でも、血液内科だから、これは正しくないかも(笑)。

骨髄を採取できる場所は、成人ではあまり多くはありません。子どもでよく行われる四肢の骨は、成人では、すでに、多くが脂肪組織に置き換わっており、あまり診断的意味がありません。最後まで造血が行われているのは椎骨だそうですが、この骨に針を刺すことは容易ではありませんから、除外しますと、胸骨と腸骨ということになります。
腸骨は骨盤の骨で、お尻の骨ですが、とても大きく、骨髄移植のための骨髄採取はこの骨から行われます。患者さんは、通常、うつぶせに寝てもらい、お尻に針を刺して、皮下脂肪や筋肉の間を、骨に進めて行きます。
それに引き換え、胸の真ん中にある、胸骨はあまり大きな骨ではありません。しかし、皮膚からすぐ下にあり(通常皮下脂肪が多くないから)、位置を確認することはとても容易ですし、骨髄に針をあてることも容易なので、頻用してきました。しかし、患者さんからみると、恐怖感もあるだろうと思います。上向きに寝て、その胸の真ん中に針を刺されるのですから。

医師たちは、胸骨からの骨髄採取で、恐ろしい合併症があったことは、聞いて知っています。簡単にいえば、薄い骨を針がつきやぶってしまうことがあるのです。胸骨の下は、心臓です。

私も、以前、肝硬変の末期(非代償期)の患者さんの骨髄を胸骨から採取したことがありますが、びっくりしたことがあります。
いつものように、麻酔をして、それから、針を皮膚から胸骨へ進めて行きました。麻酔の針で皮膚からの骨の深さは測ってありますので、大体の深さはわかっています。それに、骨は、やはり、硬い組織ですから、針先があたれば、ガチって感じで、すぐにわかります。と、思っていました。
しかし、この肝硬変の患者さんの場合、想定した骨の表面まで針を進めたはずなのに、いつもの感触がありません。ふにゃとした感じしかありません。でも、絶対に針の深さは、骨の表面まで達しているはずなのです。おかしい。すぐに、まず、針を抜きました。
(ここで、手応えがないからと、針をさらに進めたり、あるいは、皮膚表面の始めから、力強く、針を進めるような医師は、医療事故を引き起こすことでしょう)

抜いた針の長さを確認します。確かに、きちんと長さは正しいようです。
そこでもう一度、麻酔の針を刺して、骨を確認してみました。
骨にあたる感覚がありますが、あれ、なんか、違うな。柔らかいのです。まるで、豆腐に針をさしたみたいな(そんなことをしたことはないが)。

そうか、肝硬変のために、骨の組織もボロボロになっているのだ。
それがわかれば、改めて、針を刺し直し、想定される骨の深さまで慎重に針を進めてから、骨髄を採取してみました。きちんととれました。やっぱり、手応えはあまりなかったのだけれど。骨髄がとれたかどうかは、採取した血液状の液体物の粘度や含まれている脂肪の光具合でわかります。

あとで、この患者さんのことを思い出すたびに、冷汗が出てきます。
医療行為の落とし穴は、目の前に開いているのです。

先日、日本血液学会は、骨髄採取は腸骨から行うように、と、通告をしました。
http://jshem.or.jp/data/boneneedle.pdf


nakaikeiji at 20:09コメント(4)トラックバック(0) この記事をクリップ!
医療事故 | 科学・医学

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コメント一覧

1. Posted by あひる   2009年07月30日 12:18
誤解を招くといけないので。
小児でも、四肢の骨で骨髄採取したりはしません。同じ腸骨です。後腸骨稜でもしますが、抑えやすいので、前腸骨稜の方が多い印象です。
ただ、新生児は脛骨でしたりしますけど。
2. Posted by ぷーさん   2009年07月30日 13:52
あひる さん、鋭いご指摘をありがとうございました。

筆が走りすぎてしまいました。

子どものときには、「四肢の骨の骨髄での造血がある」ということと、「小児科では、2−3歳ぐらいまでは脛骨(下腿の骨)の骨髄を採取する」、ということをいっしょくたに書いてしまいました。誤りの記載になってしまいました。申し訳ありません。

小児科での前上腸骨稜での採取は初めて知りました。

今後とも、よろしくお願いします。
3. Posted by 笑腰   2009年07月31日 01:07
> 前上腸骨稜(×)=>上前腸骨稜(◯)

こういうことにこだわるから、解剖学(者)は嫌われるのですが、一応説明させてください。

「上前腸骨稜」「下前腸骨稜」は、「前腸骨稜」が山/谷/山のS字を形成していることからついた名前です。
腸骨稜の下縁は触知できませんから、あひるさんの「前腸骨稜」「後腸骨稜」という表現は、臨床用語としては許容できると思います。
でも、腸骨稜は骨盤を山に見立てれば、文字通り「稜線」ですから、「腸骨稜の上」というのは、ナンセンスです。

偉そうに講釈垂れて申し訳ありませんが、用語もそれなりのワケあって決まっていることをご理解いただければ幸いです。
cf. http://www.jmdp.or.jp/documents/file/04_medical/f-up02a.pdf
(日本骨髄バンク「骨髄採取マニュアル」第3版」より)
4. Posted by ぷーさん   2009年07月31日 08:51
笑腰さん、いつも、鋭いご指摘をありがとうございます。
思い切り「採点」をいただきました(笑)。

あひるさんの前腸骨稜は、「上」前腸骨稜のことだと思って、負けじと、コメントを返したのですが、それが、かえって、自分の不正確な解剖学知識を露見することとなりました(汗)。また、それぞれの命名には、きちんとその根拠、理由があることもあらためて認識し直すことができました。ありがとうございました。

もともと、気軽な気持ちで始めたブログなのですが、最近、反響が大きくなっているので、より一層、慎重にします。正確を期することが大事ですね。

これからも、不正確な知識や誤りがございましたら、お気軽にご指摘ください。
よろしくお願い致します。

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