2008年12月19日

医学部受験生への公平性と、医師の自由の保障。

「医師不足」による「地域医療崩壊」の現状をうけて、この国の対策の重要な柱の1つに、「医学部定員枠増」と「へき地枠」の設定があります。

これについて、入試機会の公平性という観点から、様々なご意見があります。私も、国立大学の医学部に所属する教員として、いろいろ、考えさせられています。

入試は公平性がもっとも重要で最優先されるべき

というのは、憲法のことのように大事なことと思っています。そのことが他の理由よりも優先度が低いということがある社会には、将来の希望はないだろうと思います。実は、このことが日本に確立したのは、戦後の現行憲法よりもずっと前の、「明治維新」のころだそうですね。すごいことと思います。

大学やその設置者の国、と比べれば、受験生という存在はとてもちっぽけな存在であり、受験生が毎日がんばれるのは、「入試の公平性」が保証されているからですよね。そのことを信じてがんばっているのです。

だから、医学部入試は最大限の公平性を優先して実施されています。大丈夫です。

*社会が許さないのは、もし、地域枠、へき地枠の設定が、その大学の定員のほとんどであったり、あるいは、そういう特別な枠の存在が公表されていない場合は、明らかに法律違反と思います。

実際、今回、全国の大学で特別に設定された、へき地枠は、社会の要請に対する「国策」であり、正当に認められた制度です。そして、その枠はどの大学でも、限定的であり、それ以外の普通の公平性ある定員枠は今まで通りに運用されています。だから、「社会通念上認められない不当に不平等な制度であり、しかも、その目的も社会が認められないものである」という主張は、認められないだろうと思います。私は裁判官でもなんでもないですが。
ご理解をいただければと思います。

でも、医師という権限を社会から認定されたプロフェッションは、医学部受験生とは立場が明確に違うと思います。医学部受験生と医師は立場が違います。医師は、きちとんした社会的身分が保障され、患者さんや住民より立場が「強い」と思います(たぶん。笑)

今の地域医療崩壊の構図を、受験生と大学の構図と同様に、あてはめるとこうなります。

そこに居住することが法律違反でもなんでもないところに住んでいるのなら、他の地域と同等の医療サービスの提供が保証されるべき、さらに、きちんと健康保険料も税金も払っているのなら当然の権利でもある。

ということです。これは地域住民にとて、受験生に保証されている公平性と同じですし、しかも、生存に関わることでもあります。基本的人権の尊重として大事なことです。

「医師不足」による地域医療崩壊は、この地域住民の生存権や医療サービス享受の公平性が損なわれているわけです。そして、このことは、医師としてのプロフェッションの個人的な価値観よりも優先されると思うのです。この国ではね。
誤解のないように、何度も繰り返しますが、これは、医学生にはなっていない受験生ではなくて、医師免許を持った医師に対してです。

医師に対しては、この社会が「許容」する範囲内なら、その価値観、行動指針は制限される可能性があります。あくまでも許容範囲ならです。(たとえば、奴隷的な勤労条件を強制されるのは「許容範囲外」だと、それが医師だとしても、と、私は思っています。この国の多くの勤務医の待遇は、労働基準法違反です。違法です。)

だから、もし、その医師への「適法な制限」が嫌なら、自分に与えられた医師という資格・責務を社会に返すべきかもしれません。その適法とされる制限の制定過程には、しっかりと医師たちも主張をしていく必要はありますが。
大事なことは、へき地にいっても、正当な理由があれば、いつでも戻れることや、あるいは、へき地であっても、医師として、正当な報酬や待遇、勤務条件が保証されているのであれば、それは、違法なことではない、と思います。

医学部受験を考えている方は、そのことを理解した上で、医師と言うプロフェションをめざして欲しいと思います。
今、へき地に行くのも自由、いかなくても自由です。いい社会だと思います。
この社会が持続するようにするためには、今、我々医師は、なにをすべきでしょうか、我々の政府は制度をどのように改善すべきでしょうか。

nakaikeiji at 12:08コメント(9)トラックバック(0) この記事をクリップ!
医学部入試 | 医療崩壊

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コメント一覧

1. Posted by 匿名希望   2008年12月20日 12:12
医師免許って返納できるものなのですか?
2. Posted by 医学部2年   2008年12月20日 18:54
定員の半数が地域枠という大学もあるようです。
この動きは全国に波及していくと思いますが、どうでしょう?

国立大学法人旭川医科大学は、2009年度の入学試験から医学科の定員100人のうち50人を地域枠にする。卒業後、北海道内で勤務することが条件となる。

既に、2008年度入試から地域枠制度を採用する(地域枠推薦入学10人と編入学の北海道地域枠5人の計15人)ことを決めているが、2009年度入試からは、さらにAO入試枠をすべて北海道地域枠(35人)とし、地域枠は定員100人の半数50人まで増やし、地域医療に意欲を燃やす学生を取り込む考えだ。深刻な医師不足に悩む地方の医療の「再生」を目指す。

共同通信によると、全国に79ある医学部設置大学のうち、2007年度入試では19大学で地域枠を設置しているが、割合の高い大学で3割程度といい、半数というのは例がない(文部科学省医学教育課)という。

◆参考
旭川医科大学のトップページ
http://www.asahikawa-med.ac.jp/
2009年度の入学者選抜方法に関するページ
http://www.asahikawa-med.ac.jp/bureau/nyusi/AOhokkaidou.pdf
3. Posted by kei   2008年12月20日 18:57
まあ、地域枠にはそういう解釈があるのかもしれませんね。でもこの様な考え方、一般人にまで広く浸透しているとも思えません。例えば誰が自治医大入試では各都道府県に定員が割り当てられている知っているでしょうか。つまり自分の身に降りかからないと真剣に考えないのではないでしょうか。私は地域枠には反対です。というのもなぜ今まで通りの極めて公平な一般入試ではいけないのでしょうか。おそらく他から来た学生がその県に残らないという答えがあると思います。しかしなぜ学生が残らないか徹底的に考えた過程があるのでしょうか。学生が残らないのはその地域にも問題があると思います。例えば都会の病院よりも処遇が悪いとか。都会の病院と研修内容がほぼ同じなのに処遇が低いとか。最先端のことを提供できないとか。その大学の医局が弱くて県内の病院すら他県の大学の医局に奪われているとか。この様な問題を一切解決せずに短絡的に他の大学がやっているからやってみようという風潮が感じられるのです。例えば西日本では医師の数が多いのに地域枠を導入しているところもあります。例えば高知県や徳島県など。
4. Posted by kei   2008年12月20日 18:58
確か滋賀医大が日本で初めて地域枠を導入してその学生が卒業しているかいないか位で地域枠の有用性も確立されていないはずであるのに。高利の奨学金や地域枠の学生の授業料は自治医大方式にすれば他県の学生が卒業してもそう簡単には出て行ったりはしないでしょうし。医師を計画配置するならこの前の読売の社説のようにすればいいのでは。例えばa県の耳鼻科の定員はa名だから超過分は他の空いている県に行くとか。研修医では、各県の医大の卒業者数とその県研修医の募集を同じにすれば都道府県間の移動はあってもこれはbarterになるので定員割れを起こすようなこともなくなるのではないでしょうか。私が言いたいのは、あくまでも入試は平等で制度の運用を変えることで諸問題を解決するのが筋ではないでしょうかということです。
長くなってすみません。
5. Posted by kei   2008年12月20日 19:40
追伸
各県の研修医の定員をその県の医大卒業生と同じにするという下りで、私学の医学部卒業生は除くと訂正したいです。あくまでも国公立限定で考えて下さい。私立の学生は高い学費を払っているのためです。その学生が国公立と全く同じでは可哀そうですから。だから私学の学生だけは好きな県を選べるようにすとのことです。別に自分のために言っている訳ではないですよ。私は公立の学生ですから。
6. Posted by saka   2008年12月22日 23:23
はじめまして。初めてコメントさせていただきます、東北地方の某大学に通っているCBT間近の学生です(笑)

少し気になったのですが、だまくらかして云々のくだりは前提が違っているような気がします。つまり、若い研修医は自分の勤め先をある程度は自由に自分の意思で選べるし、国民は成人であれば色々な事情はあるにせよ自分の居住地を自分で選ぶことが可能ですが、18歳の高校3年生が自らの意思で「出身地」を選ぶことはできないということです。どんなに努力をしても自らの意思では変えられない事実を理由に不当に区別をすることは「差別」にあたるのではないでしょうか。
7. Posted by ぷーさん   2008年12月24日 02:54
皆様、いろいろ、コメントをありがとうございます。

確認しておきたいのは、私も、今回の「へき地枠」などの特別な地域枠の設定が、入試の平等性を歪めている可能性があると思っています。そこは、全く同じ意見です。

ただ、この国は、入試の平等性の徹底よりも、へき地における医療サービスの提供の平等性の方を優先した、そういうことなのだろうと思います。つまり、入試制度において、不平等な制度かもしれないけれども、それは「許容範囲内である」と、そういうことなのでしょう。その定員枠の設定の上限は、それぞれの地域の実情もふまえて、最大でも、その大学の定員枠の半分ぐらいまで、と、文部科学省は考えていると、このように考えられますね。

最終的には、具体的に不公平な被害を被ったと、誰かが裁判でも起こして、裁判官の判断を待たないといけないのかもしれません。被害の証明がないと、「原告として不適格である」と、いわゆる門前払いを受けそう。つまり、裁判としては難しいとも言えますね。
8. Posted by fundamentalism   2009年02月11日 22:57
地域枠が、地域の住民の権利の保護とか言ってるけどこれも一面しかとらえていないのでは。どこかでマスコミが物事の一面しか伝えてないとか仰っていましたけど、貴殿も同じでは。貴殿はどこかで、地方は医療費の支払ってばかりでそれに対するサービスが受けられていないとか、他の地域と同等の医療サービスの提供が保証されるべきと書いてありましたよね。しかし居住移転の自由もあるし、他の公共サービスも地域差はある。また国保や政管健保にしても公費が投入されています。地方の財政を支えるもの大きなものに交付金があります。なぜこのようなことをするのでしょうか。それは国が一旦税金を国に納めることで税の均衡を行うためでしょう。つまり都市の税をより地方に配分するための制度です。また政管健保でも、都市の方が高額所得者がおおく保険料の負担も多い。つまり都市が地方を養う面が大きい。貴殿が言うような、地方が地域枠を行う権利あるのでしょうか。金を払って初めての権利では。また医療政策と入試制度などの教育政策を混同するべきではないのではないでしょうか。金の出所が違うのだから。貴殿は地域枠を地域の権利とか言ってきれいごとにしているけど、地域枠を行うのは地方の学生の学力が低く都市の多くの学生に対抗できないから特別枠を使って入学させようというのが実情ではでないでしょうか。地方の学生の学力が高ければ、地域枠を行う必要ないでしょう。地方は学力の向上に財源を割かず、公共事業ばかりしてきた。実際地方の公共事業の負債は尋常ではない。また地方は都市の学生や医師に魅力的なものを提供することを怠ったことが一番ではないでしょうか。その責任を棚上げにしてはいませんか。
9. Posted by ぷーさん   2009年02月12日 11:21
fundamentalismさん、コメントをありがとうございました。また、いろいろ、たくさんお読みいただき、ありがとうございます。
今回の、入試における地域枠の設定は、入試における公平性を歪めている可能性があると私は考えています。だから、ほとんどの大学での地域枠は、かなり限定的ですし、いわゆる一般の入試は、いままで通り公平に行われています。

しかし、我々の政府は、医師をめざす受験生入試の公平性よりも、「居住の自由」が保証されている国民にできる限り公平なサービスを提供することを優先するという考えなのだろうと、私は思っています。
なお、憲法で保証されている条文の適用は、少数派や、力の小さい人のためにつかう場面が多いと思います。「公共サービスのコストが少なくてすむ都会に住みなさい」では、「居住の自由」が、逆に制限されていませんか。

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