2008年10月12日

できるだけ多くの学生を学習プロセスに参加させたい

学生のほとんどは、学習意欲が十分にあります。特に、医学生は、「高度専門職養成専門学校」という感じで、6年間の医学学習を楽しそうにやっているように思います。医学に関することなら、何を勉強しても、「損はしない」と思います。
しかし、中には、学習意欲が十分に発揮されていないように見える学生がいるのも事実です。たぶん、時期的なものや、環境に関する因子があるのだろうと思います。(つまり、状況が変われば、必ず、学習意欲が出て来て、学習を展開するだろう、ということを信じています。学生を信じるから、教育ができるのですからね。)

学習意欲とはどういうもので、どうやってそれを引き出すか、等については、医学教育だけでなく、そもそも、教育学の重要な研究分野です。なので、様々な研究論文や著作が出ていますので、私もいろいろ自主的に学びました。医学部出身なので、医学教育の仕事をしていながらも、今まで、教育学については学んだことがなかったからです。
理論を学びながら、いろいろな具体的な方法論も試して、実践してきました。この仕事をするようになってから、7年目になりましたが、いくつかの方法論は既に確立できています。
その中で、今日は、試験という「仕掛け」について、簡単に実践を紹介しようと思います。

試験は、学生にとって嫌なものかもしれません。でも、実は、医学部に来ているような学生たちは、皆、試験は得意だったりします。もともと。「試験があると、ワクワクします」なんてことを言う学生はいっぱいます。そうでなくても、「試験があるから、勉強になります」という意見も少なくありません。ひどいのになると、「試験がないと勉強しないのでダメですね」なんてのも。これは、本末転倒かも。
いずれにしても、試験というものをうまく使えば、学生のみなさんが、すばらしい成果を示すことができる、ということは間違いありません。試験は、結局、学生のみなさんが、学習するための手段と考えています。
また、教員側にとっても、試験というのは怖いものです。自分が対象としている学生たちの状況がわかるし、自分が実施している教育の内容も判明するからです。

*「試験」というのは、いわゆるペーパーテストだけではありません。ここで、私が「試験」と読んでいるのは、いろんな形態、内容のものを含めた総称です。

本当は、一人一人の学生の成長を、もっと、Man to manで関わりたいと思うのですが、1学年100人以上も学生がいますので、なかなか、難しいです。もちろん、その努力は、できるだけはと、怠ってはいませんが。

さて、試験を使った学習意欲の促進方法ですが、たとえば、形成的な評価のための試験と総括的な評価のための試験というように、試験の目的に応じた実施を心がけています。そのことは、もちろん、学生たちにも伝えます。なんのための試験なのか、ということは、当の学生たちが知らなければ、有効な手段になりえません。
なので、試験も何種類も実施していますが、数年前から、その方法論を確立し、自信をもって実施しているのが、小テストを使うものです。実施方法ですが、いろんな方法を試してみて、ほぼ確立しました。
(これには、Barbara Gross Davisの Tools for Teachingという本が大変参考になりました。日本語訳も東海大学出版会から出ていますが、ぜひ、英語のままで読むことをお薦めします。和訳が悪いということではありません。しっかりと翻訳できていると思います。)

小テストは、講義がメインのカリキュラムにおいて、補助的に用います。つまり、ただ、講義をしているだけでは、なかなか、全ての学生が学習プロセスには入りませんし、また、学生側の学習意欲が低いと、講義の有効性にも悪影響を与えてしまう危険があるからです。あくまでも補助的なものです。また、一般的には、グループでの学習が、個人学習よりもよい成果が生み出されるということもわかってきていますので、よいグループダイナミクスが生み出されるように実施する場合もあります。

小テストの実施は、日時と内容を、全員に事前に周知をしておきます。準備preparationをしてもらうためです。つまりは、学習ですね。なので、毎週1回程度、通常は、2週間に1回程度にしています。あまり頻回だと、学生側の準備ができないからですし、でも、回数が少なくても、1ヶ月に1回程度までかもしれません。そうでないと、期間が長い分、分量が小テストと言える枠を超えかねません。学生たちにとって、過大すぎるタスクは、学習意欲をかえって低下させ、危険です。

よく用いる小テストは、15分から30分間程度で解答できるもので、簡単な内容ですが、その内容についても、工夫が必要です。試験の内容によっては、かえって、学生たちの学習意欲をスポイルする場合すらありますから。

その方法ですが、事前に配布して、持ち帰らせて、翌日などに提出させる方法もありますし、当日、各自に解答させる場合、参考資料などの持ち込みも許可する場合もあります。
グループごとに座らせて、グループ内での情報交換を認め、提出はグループごとにさせる場合もあります。また、グループでの検討を許可する場合は、答案を提出させずに、グループごとに発表させる方法もあります。このとき、グループごとのカラーというか、グループダイナミクスをきちんと評価し、発表を担当するグループの選択や発表順番などに反映させる必要があります。毎回、順番に発表というのだけを繰り返していると、せっかくの学習促進効果が失われてしまう危険があります。

いずれの方法も、最終目標は、できるだけ多くの学生たちに学習プロセスに入ってもらうためですので、その点を見失わないようにしなければなりません。つまり、学習内容とその時期、また、学生たちの様子を、きちんと把握した上での、臨機応変なやり方が必要ということです。
実は、こういう、授業での工夫というのは、どの大学にも、熱心な先生がおられ、様々な工夫を重ねておられるということを知っています。ただ、どうしても、その先進的な取り組みの実践が、その先生が担当されている科目や、その先生が所属されている講座の教育責務内にとどまり、学部や大学全体のカリキュラムへの反映とまでは昇華してないことがほとんどです。その点、うちの大学では、いろいろな取り組むができやすい状況が実現しています。

しかし、このような工夫の最大の前提は、学生がどれだけ、大学を信頼しているか、ということにつきるので、ここも大事です。「学生を、教育の方法論の研究材料、モルモットにしている」と、学生たちが感じてしまうと、そこには教育の実践はありません。

しかし、それでも、学習意欲が低いままの学生もいるなあ。まだ、まだ、こちらの工夫が足りないのでしょうね。がんばりましょう。

nakaikeiji at 01:20コメント(3)トラックバック(0) この記事をクリップ!
医学教育 | 学生気質・学習意欲

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コメント一覧

1. Posted by yt   2008年10月12日 17:09
うちの大学とは大違いですね。うちの医学部教育専任教官なんて授業内容をはるかに越えた問題をテストで出したりしてむしろ勉強意欲を削いできます。先生の大学のCBTの成績が良かったという記事がありましたが、こういう授業を全体的にやっていれば当然なのかなあと思います。国家試験の合格率は上位の大学なんですけどね・・・
2. Posted by mikan   2008年10月13日 22:08
やる気のない学生を奮起させるのも難しいですが、やる気のない教員を奮起させるのも難しいと思います。中には教育熱あふれるすばらしい先生もいるのですが、それはその先生が優れているに過ぎません。あちこちの大学で採用されている教員の評価システムにも問題は多いようですし、どの科目についても最低限の質を保つという目標はなかなか達成されないのが現状ですね。臨床や研究などの業務がが忙しいのはわかりますが、所属(学部・大学院・病院)をはっきりとさせた上で、(教育も仕事に含まれるならば)きちんと時間を割いて欲しいです。教育に対する正当な評価がないままでは、片手間になるのも仕方がないと思います。
3. Posted by ぷーさん   2008年10月29日 20:32
ytさん、mikanさん、コメントをありがとうございました。

毎日、実際に、いろんな学生のみなさんたちと接しながら、試行錯誤しながら、苦しみながら、でも、よりよい成果を求めて、がんばっています。
学生のみなさんが、立派な研修医、医師になっていくのをみると、うれしく思っています。
自分も、いろいろ、教えられているとも思いますし。

また、よろしくお願いします。

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